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我が国における「がんリハビリテーション」の現状
 これまで、我が国では、がんそのもの、あるいは治療過程による身体障害に対して積極的な対応がなされてきませんでした。がん患者では、がんの進行もしくはその治療の過程で、様々な機能障害が生じ、それらの障害によって起居動作や歩行、ADL(日常生活動作)に制限を生じ、QOLの低下をきたしてしまう恐れがあります。がんリハビリテーションでは、これらの問題に対して二次的障害を予防し、機能や生活能力の維持・改善を図ります。
 がんリハビリテーションを発展させていくためには、研究(Research)を推進し、それに裏付けされたガイドライン(Guideline)を作成、そして、そのガイドラインに基づいた臨床研修(Training)を実施し、専門的スタッフを育成することで医療の質を担保し、その上で医療を実践する(Practice)ことが必要です。
 研究面に関しては、がんリハビリテーションに関する関連学会での発表は年々増加傾向にあり、がんのリハビリテーションガイドライン http://jsco-cpg.jp/item/34/index.html が策定されました。臨床研修に関しては厚生労働省の委託事業としてがんのリハビリテーション研修(CAREER) http://www.lpc.or.jp/reha/ が開始され、実際の診療においては、「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定が可能になるなど、我が国におけるがんリハビリテーションはこの10年で大きく発展してきました。
 CAREERの受講者数は順調に増加し、「がん患者リハビリテーション料」は、がん診療連携拠点病院の81.5%(2016年4月現在)で算定されており、がんリハビリテーションの実践される施設は急速に拡大しつつあります。しかし、「がん患者リハビリテーション料」は、入院中のがん患者を対象として、主要な原発巣・治療目的・病期が網羅された算定要件となっており、退院後にはがんリハビリテーションの介入が十分になされていないのが現状です。
 
米国における「がんリハビリテーション」の現状
米国では、がん生存者の増加ともない、がんリハビリテーションが、がん診療やリハビリテーション診療のトピックスのひとつとなっています。2016年10月にニューオリンズで開催された米国リハビリテーション医学会(American Academy of Physical Medicine and Rehabilitation: AAPM&R)年次集会 http://www.aapmr.org/education/annual-assembly では、リハビリテーションサミットが企画され200名以上のリハビリテーション科専門医(Physiatrist)が参加し活発なディスカッションが行われました。
我が国だけでなく欧米でも、近年、治療の前からのリハビリテーション、いわゆる「Prehabilitation 」が成果を挙げつつあり、それとともに手術や放射線治療、化学療法等の治療中や治療後の切れ目のないリハビリテーション介入の重要性についての認識が高まってきています。それとともに、がんサバイバーのための外来リハビリテーションプログラムの導入も進みつつあります。
一例として、STAR (Survivorship Training and Rehabilitation) Program http://starprogramoncologyrehab.com/ を紹介します。STAR Program認定の医療機関が、全米で550施設あり、がん治療中あるいは治療終了したサバイバーは、各々の症状に応じて用意された根拠にもとづいた質の高いリハビリプログラムを受けることができ、がんサバイバーの機能障害やADLの改善、QOLの向上とともに、介護者負担の軽減や医療経済的面での効果など成果を上げています。